痴人の愛 / 谷崎潤一郎
著者:谷崎潤一郎
出版社:新潮社
発行年:1947年
サイズ:148mm×106mm(文庫本)
商品の状態:表紙に傷とスレあり。本文の状態は概ね良好です。
マゾヒズムを地でゆく小説家、谷崎潤一郎の長編小説です。カフェで出会った15才の少女❝ナオミ❞を理想の妻に育てようとした男❝譲治❞が次第にナオミの妖艶な肉体に魅了されて愛欲の奴隷になる様を描いています。一人の女を求めるあまり身を落とす主人公にわずかな羨望を抱いてしまうのはわたしだけではないはず。みなさまも本書で谷崎潤一郎のマゾヒズムの世界にどっぷり漬かってみましょう。
—— 夫人の体には一種の甘い匂がありました。「あの女アひでえ腋臭(わきが)だ、とてもくせえや!」と、例のマンドリン倶楽部の学生たちがそんな悪口を云っているのを、私は後で聞いたことがありますし、西洋人には腋臭が多いそうですから、夫人も多分そうだったに違いなく、それを消すために始終注意して香水をつけていたのでしょうが、しかし私にはその香水と腋臭との交った、甘酸ッぱいようなほのかな匂が、決して厭ではなかったばかりか、常に云い知れぬ蠱惑でした。それは私に、まだ見たこともない海の彼方の国々や、世にも妙なる異国の花園を想い出させました。「ああ、これが夫人の白い体から放たれる香気か」と、私は恍惚となりながら、いつもその匂を貪るように嗅いだものです。——(本文より引用)
¥330
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